京都祇園祭では山鉾の巡行が行われます。その山鉾を飾る懸装品として、国内外の染織品が用いられてきました。その中には、江戸時代に輸入されたインドやペルシアのじゅうたんもあります。
1986年に、日本とアメリカの染織学の研究者たちによって、これらのじゅうたんの本格的な調査が行われました。その結果、星形メダイヨン文のインドじゅうたんが2枚あることが明らかになりました。この文様のじゅうたんは、17世紀後半のオランダ絵画に頻繁に描かれながら、これまで現存するものが確認されていなかったのです。そのため、日本にあるインドじゅうたんに国際的な注目が集まることになりました。 このタイプ以外にも、祇園祭のインドじゅうたんには、よく知られているペルシアや北インドのじゅうたんとは異なる珍しいタイプのものが含まれていることがわかりました。そこで、研究者たちはこうした特異なタイプのインドじゅうたんを「京都グループ」と名付けました。 近年の研究で、「京都グループ」のじゅうたんはデカン(インド南部)で生産されたのではないかと考えられるようになりました。しかしその後、これらのじゅうたんに関する研究が十分になされてきたとは言えません。

そこで私は、ニューヨーク大学美術研究所で博士論文に取りかかる際、京都祇園祭で用いられてきた、デカン産とされるタイプのじゅうたんを扱うことにしました。そのためにまず、メトロポリタン美術館イスラーム部門の研究員として2年間、所蔵されているじゅうたんコレクションを実際に調査しながら、じゅうたんの組織(構造)などを学びました。そして日本や欧米に残っているインドじゅうたんを調査しました。 より詳細な研究方法と、そこから得られた成果について、以下で説明します。

まず、京都にあるじゅうたんが本当にデカン産のものかどうかを検証しました。その際、ロンドンのヴィクトリア・アンド・アルバート美術館(以下V&Aとする)にあるデカン産のじゅうたんと比較考察しました。V&A所蔵のインドじゅうたんは、18-19世紀にデカン地方のワランガルやハイデラバードなどの地で生産されたものであることが記録に残っていますので、デカン産じゅうたんの基準作となるからです。
比較の際は、じゅうたんの組織、材質、モチーフに注目し、京都のインドじゅうたんとV&Aにあるデカン産じゅうたんそれぞれの特徴を抽出しました。デカンで作られた工芸品や建築装飾に見られるモチーフも産地を特定する手がかりとなります。
検証の結果、京都にあるインドじゅうたんのいくつかは、北インドやペルシア産のじゅうたんとはデザインも組織も異なりましたが、V&Aにあるデカン産のじゅうたんとは組織が似ており、多くのモチーフも共通していることがわかりました。また、デカンの工芸品と共通する独特のデザインも見られました。これらの点から、京都のインドじゅうたんの一部がデカンで生産されたことはほぼ確実と考えられます。

続いて、上の調査で抽出したデカン産じゅうたんに見られる特徴をもとに、世界のどこに類品が現存しているかを調査しました。
その結果、日本では滋賀県長浜市の長浜曳山(ひきやま)祭の曳山(山車の一種)を飾る懸装品として用いられているインドじゅうたんもデカン産であることが明らかになりました。 これまでデカン産であると指摘されているインドじゅうたんは世界に30点ほどでしたが、調査の結果、インド、ポルトガル、イギリス、オーストリア、日本、アメリカなどの各地にかなりあることがわかりました。